GoldenPhoenixRecords

Rachelle・水沢よりアナタへ

グラミー賞2021ノミネーションを見ての感想および受賞予想

第63回グラミー賞のノミネートが発表された。

毎年何かしらの物議を醸し出すノミニーの顔ぶれ。今年は早速The Weekndが全くノミネートされていないことに対する論争が、エイベル君本人をはじめあちこちでなされている。

 

今年のノミネーション、主要4部門は以下

 

最優秀レコード賞

 

“Black Parade” by Beyonce

“Colors” by Black Pumas

“Rockstar” by DaBaby & Roddy Ricch

“Say So” by Doja Cat

“everything i wanted” by Billie Eilish

“Don’t Start Now” by Dua Lipa

“Circles” by Post Malone

“Savage (Remix)” by Megan Thee Stallion feat.  Beyonce

 

最優秀アルバム賞

 

“Chilombo” by Jhene Aiko

“Black Pumas (Deluxe)” by Black Pumas

“Everyday Life” by Coldplay

“Djesse Vol. 3” by Jacob Collier

“Women In Music, Pt.3” by HAIM

“Future Nostalgia” by Dua Lipa

“Hollywood’s Bleeding” by Post Malone

“folklore” by Taylor Swift

 

最優秀楽曲賞

 

“Black Parade” by Beyonce

“The Box” by Roddy Ricch

“cardigan” by Taylor Swift

“Circles” by Post Malone

“Don’t Start Now” by Dua Lipa

“everything i wanted” by Billie Eilish

“I Can’t Breathe” by H.E.R.

“If The World Was Ending” by JP Saxe feat. Julia Michaels

 

最優秀新人賞

 

Phoebe Bridgers

Indrid Andress

Doja Cat

Kaytranada

Megan Thee Stallion

Noah Cyrus

Chika

D Smoke

 

 

 

今回も錚々たるメンツである

 

対象期間にリリースした自身の新曲は実質一曲だったビヨンセがその一曲で主要2部門にノミネート、さすが女王の風格である

 

去年の新人賞候補であり今年主要3部門にノミネートされたBlack Pumas、正直今回初めてまともにお名前と活動履歴を確認したが、グラミー会員が好きそうな、実直でメロディアスなブルースを歌うバンドだなと思った。「アラバマ・シェイクス枠」とでも言えようか。

 

“Rockstar”と”The Box”の2曲でそれぞれ別々の2部門にノミネートされたRoddy Ricchは、去年のLil Nas Xに通ずる新時代のラップスターか。

 

SNS界隈では「グロスみたいにキラキラ光る」曲の存在感が強かったDoja Catはグルーヴィーでレトロな感触が心地良い”Say So”の大ヒットがレコード賞だけでなく新人賞のノミネートも後押しした。

 

去年圧倒的な支持を集めて主要部門をかっさらったBillie Eilishは今年も新曲で堂々のノミネート。これとは別で発表された007最新作の主題歌も映画歌唱曲部門でノミネートされている。

 

去年の暮れにリリースされた”Don’t Start Now”がビッグヒットになったDua Lipa、最新アルバムは他のシングルも堅実にヒットして今年を代表する1枚になった。

 

ここ数年、Drakeと同じく「曲をリリースすれば爆発的ヒットになる」アクトPost Malone。もはやラップっぽさがほとんどないオルタナシンガーソングライター然としたアルバム”Hollywood’s Bleeding”とそこからの大ヒットシングルで3部門にノミネート。

 

Doja Catのヒットと時期を同じくしてビヨンセをフィーチャーしたSavage (Remix)で初のHot 100トップを獲得したMegan Thee Stallion。Cardi Bとのシングル”WAP”やデビューアルバム”Good News”の勢いそのままに、レコード賞を獲得出来るか。

 

Jhene Aiko、Jacob Collierといったフレッシュな面々の中にシレッとColdplayのあまりヒットしなかったアルバムがノミネートされているのもグラミーらしい(著者は彼らの最新作、結構好きだったよ)。

 

毎年「レコード賞と違いがわからん!」と揶揄される楽曲賞、H.E.R.の強烈で緊迫したメッセージのこもった”I Can’t Breathe”と、何年かに一度出る「牧歌的なサウンドとちょっと捻った歌詞がなぜかキャッチーでヒットしちゃう」枠(別名『Gotyeの”Somebody That I Used To Know”、Passangerの”Let Her Go”』枠)のJP Saxe & Julia Michaels。

 

例年以上に「新人じゃなくね?」な新人賞。

 

 

 

どこまでも「グラミーらしいな」といった顔ぶれである。

 

 

 

その他話題にあがっているところでいえば、BTSの「最優秀ポップグループパフォーマンス」ノミネート、「最優秀ロックパフォーマンス」のノミネーションが初めて女性もしくは女性がフロントマンのグループで占められたこと等。

 

個人的には「Best Rap Performance」と「Best Melodic Rap Performance」というカテゴリー分けがあることにビックリしている。

ポップ畑が元々MaleとFemaleに分けられていたのが数年前に統合されたりロック畑のカテゴリーが減ったり、グラミーはグラミーなりに世相を反映させているということか。

 

 

 

そんな中から著者の受賞予想を。

 

レコード

Black Parade

 

アルバム

Future Nostalgia

 

楽曲

I Can’t Breathe

 

新人

Doja Cat

 

 

ここしばらくビヨンセは主要部門にノミネートされながら悉く受賞を逃している。アルバム『Beyonce』も『Lemonade』も『Lion King: The Gift』も、クオリティはグラミー受賞レベル以上の素晴らしさだけれど、悪い意味でのグラミーっぽさにあてられてしまっているとでも言えるだろうか。最後にビヨンセが主要部門を受賞したのは2010年のグラミーでの最優秀楽曲「Single Ladies」なのだ。奇しくも彼女が、ポップな曲を求めるレコード会社に対して「私は自分の出自、アイデンティティに根付いたDopeな音楽をやりたい」と言ってSwagga溢れる方向性にシフトしていった頃から、彼女の”不遇”は始まった(アルバムを出せば片っ端から主要部門にノミネートされることを「不遇」と言うのであれば、だが)。カニエでなくとも「ビヨンセが受賞すべき」と言いたくなる気持ちがわかるだろう。

 

そんなBeyの渾身のアフリカン賛歌。

曲が持っている”圧”が違う。

 

 

 

Dua Lipaは”New Rules”のヒットから大きく脱皮して名実ともに世界のトップアーティストにのし上がった。”Hotter Than Hell”がUKシングルチャート最高位15位と、最初のヒット曲を出すのに苦心していたのが嘘のようである。

レコード部門や楽曲部門のノミニーだけでなく、今年のヒットチャートを見てもわかる通り、ここ数年(特にストリーミングがアメリカの隅々にまで浸透してから)ラップ系統の曲がすごく強い。それもいわゆるDopeで最新のヒップホップマナーにどっぷりと浸かった、著者にとってしっくりくる言い方をすれば「Not so Popな」曲。そういった楽曲がシングルチャートの上位、ひいてはアルバムチャートの上位を独占することが決して珍しくない昨今。

その中で、Duaの”Don’t Start Now”や”Break My Heart”は嬉しいサプライズヒットとなった。ラップがひしめくチャートの中で、DuaやHarry Stylesの”Watermelon Sugar”のような楽曲は、それこそ「水槽に落ちた絵の具みたいなイレギュラー」として鮮烈に耳に残った。

そしてDuaのアルバム「Future Nostalgia」はシングル曲だけでなく全ての曲がアイコニックで耳に気持ちいい。”Good In Bed”の気怠げなコーラス、”Hallucinate”の踊り出したくなる疾走感。”Boys Will Be Boys”の「男の子は男の子のままだけど、女の子は女性になる」は今年のベストライン10に入る。

 

テイラーのアルバムは意欲作だった。ポップスに振り切れた彼女にはそろそろ今回みたいなシンガーソングライター然としたおとなしいアルバムを出して欲しかったから、あまりのドンピシャっぷりにガッツポーズをしたくらいだ。

HAIMのアルバムも、ロスタムがガッツリ参加したことで彼女達の新境地を切り拓いた。コープレのアルバムは安定感があった。小難しい見た目をしつつ、拍子抜けするほど聴きやすかった。

 

良質なアルバムが並ぶ中で、しかしDuaのアルバムはクオリティも賞レースにおける「オーラの流れ」みたいなものも、頭一つ抜け出ていると思う。

 

 

 

H.E.R.の楽曲”I Can’t Breathe”、言わずと知れたGeorge Floydさんの最期の言葉だ。音楽的にはすこぶるH.E.R.らしい良質なオルタナR&B。正直グラミー向きかと言われるとわからない。

けれど、楽曲賞はソングライターに送られる賞である。今のアメリカに必要とされる楽曲を、H.E.R.はそのクレバーさで見事に生み出したと思う。

新世代のグラミーガールが本気で主要部門を獲りにきている。

 

 

 

新人賞はいつも「その他の主要部門3つにノミネートされているかどうか」で判断するようにしている(著者はそれでBon IverやAlessia Caraの受賞を当てられた。自慢です。何か問題でも?)。

Roddy Ricchが入っていないことが意外であったが、ここは唯一「ソロで」ノミネートされているDojaで行こうかと思う。何かとゴシップのネタになることもある彼女だけれど、”Say So”はおDuaのアルバムに通ずる「温故知新」さを感じられる楽曲だった。グラミー会員はこういうの、好きそうな気がする。

 

 

 

グラミーはあくまでグラミー。

「あれがノミネートされていない」「全然ヒットしてないのになぜノミネートされてるんだ」

そんなことを言っていたらグラミーなんか楽しめない。

これは「一番売れた曲」「一番優れている曲」等を決めるものではない。「一番グラミーっぽい音楽」を決める賞レース、そして「レコーディングアカデミーが一番推したい音楽」を決める賞レースなのだ。

エイベル君がノミネートされなかったことは残念かもしれないけれど、それが”Bliding Light”の価値を落とすことには一切ならない。なんだったら誰か彼に「それなら君は、このノミネート作品のどれを外して自分の枠を作ればいいと思うかい?」って訊いてほしいわ。

 

 

 

さ、みんなで来年のグラミーも楽しもう!

 

 

著:ゴードン村田